【犬】膀胱結石の治療法と症例紹介「膀胱切開&尿道切開」
滋賀県 草津市/大津市のエルム動物病院です。
今回は「犬の膀胱結石」についてと、症例「犬の膀胱切開&犬の尿道切開」についてご紹介します。
■膀胱結石とは?
尿に含まれるさまざまなミネラル成分が結晶化し、膀胱内の尿中にできた結晶が結石を形成したものです。この結石が尿道に移動すると、尿道結石と呼ばれます。結石が詰まって尿道が完全に塞がれてしまう状態を「尿道閉塞」と言い、急性腎障害や尿毒症を引き起こし、命にかかわる危険性があります。
尿石の種類は、ストルバイト、シュウ酸カルシウム、尿酸アンモニウム、シリカ、リン酸カルシウム、シスチンなど多くあります。さらに、複数の成分から成る複合結石もあります。
■犬の尿石の種類
犬の尿石はストルバイトとシュウ酸カルシウムが約9割を占め、その発生率はほぼ1:1となっています。6歳まではストルバイトが多く、7歳以降はシュウ酸カルシウムが多くなる傾向にあります。発生の多いこの2種類について、詳しく解説していきます。
<ストルバイト結石(リン酸アンモニウムマグネシウム)>
尿路感染症から始まる感染性結石症と非感染性結石症に分類され、犬では感染性が多いと言われています。尿がアルカリ性に傾くとできやすいです。ストルバイトは尿石用の療法食で溶かすことができる尿石ではありますが、感染性の場合は尿路感染症を同時に治療する必要があります。
結晶の内に治療を行えば早い段階で溶けていきますが、結石になってしまうと完全に溶けるまでに時間がかかります。そのため、尿石の大きさや尿道閉塞の有無などによっては、外科手術で摘出することもあります。
~好発犬種~
柴犬、ミニチュア・ダックスフント、ラブラドール・レトリーバー、ゴールデン・レトリーバー、パグ、トイ・プードルなど
<シュウ酸カルシウム結石>
ストルバイトと違い、尿石用の療法食で溶かすことはできません。結晶または小さい石の段階で早期発見できれば尿中から排出させることも可能ですが、基本的には外科手術で摘出することになります。
~好発犬種~
シーズー、ミニチュアシュナウザー、ビションフリーゼ、ジャック・ラッセル・テリア、ポメラニアン、パピヨン、トイプードル、チワワ、ヨークシャー・テリア、マルチーズなど
■膀胱結石の症状
膀胱結石の症状は、いわゆる膀胱炎の症状が典型的です。
・血尿
・頻尿
・失禁したり、排尿の調節ができない
・陰部のあたりを気にして、しきりに舐める
・排尿時に力む、もしくは痛がる
結晶ができ始めの初期だと症状がない場合もあります。しかし、早期発見して対処しないと、結晶は結石となります。
■膀胱結石の検査
<尿検査>
血尿、細菌の感染、結晶の有無を調べます。結晶が出ているかどうかを調べるだけであれば、ご自宅で採尿した尿でも可能です。ただし、採尿してから時間が経つと結晶ができてしまうため、新鮮尿をご持参ください。尿中に細菌がいるかどうか調べたい時には、病院でカテーテルもしくは膀胱穿刺による採尿をおすすめしています。ご自宅での採尿だと、細菌等が混入してしまうリスクがあるからです。
<細菌培養同定、感受性検査>
細菌感染が疑われる場合は尿中の細菌を特定し、どの抗生剤が効くか調べます。検査結果が出るまでにやや時間を要しますが、有効な抗生剤を選択することができます。
<レントゲン検査>
膀胱や尿道の結石の有無、大きさや形を調べます。尿石の種類によっては、レントゲンに映らないものもあります(例:尿酸塩)。また、石が小さい場合や、骨盤内で骨と重なっている場合は見つけられないこともあります。
※ストルバイト結石
<エコー検査>
大きさや形は正確にはわかりませんが、結石があるかどうかを調べることができます。また、膀胱内の腫瘍の有無なども検査します。
※尿石はいかに早い段階で発見し、治療を行えるかが大切ですので、定期的な健康診断をおすすめします。
結晶や尿石ができてしまったら、月に1回は尿検査をすることを推奨しています。
また、一度治ったとしても、尿石は再発リスクの高い疾患のため、定期検査をするようにしましょう。
■尿石の治療法
治療方法は結石の種類や大きさによって、以下の中から治療法を選択します。
<尿石用の療法食>
ストルバイト結石は専用の療法食で溶かすことができます。療法食により尿のpHを6.0~6.3に低下させ、マグネシウム制限食により尿中マグネシウム濃度を低下させるようにします。
シュウ酸カルシウム結石は療法食で溶かすことはできませんが、予防や再発防止のために専用の療法食をあげてください。療法食を用いて、食事中のカルシウム、シュウ酸、ナトリウムを減少させ、リンとマグネシウムを適正に摂取するようにします。
専用の療法食と水のみを与え、基本的にはおやつはあげてはいけません。
<投薬>
細菌感染が原因の場合は、抗生剤で治療する必要があります。また、膀胱炎などの炎症を起こしているようであれば、抗炎症剤も使用します。
<サプリメント>
尿石予防のサプリメントを与えることもあります。
<膀胱洗浄>
結晶や小さな尿石であれば、尿道からカテーテルを挿入して尿道の詰まりを取って膀胱内を洗浄する処置を行います。
<外科手術による摘出>
専用の療法食では溶けない尿石、または尿中からの排出ができない大きさの尿石の場合は、外科手術で摘出します。
尿石摘出手術には難易度があります。例えば、オスの尿道結石は細い尿道を切開し、切開部分を閉塞しないように縫う必要があるため、手術難易度が上がります。そのため、尿道カテーテルフラッシュ(上行性尿路水圧推進法)という手技を用いて、尿道にある結石を膀胱まで押し戻し、膀胱切開をして尿石を摘出することが多いです。
尿道カテーテルフラッシュ(上行性尿路水圧推進法)
<参照:小動物外科専門誌 SURGEON 142|EDUWARD Press>
しかし、陰茎骨に結石が引っかかると、膀胱に結石を押し戻すことができず、やむを得ず尿道切開することもあります。
<参照:イラストでみる犬の病気|講談社>
実際の手術写真については、本ページ下部でご紹介しています。
■尿石の予防方法
尿石は再発しやすい疾患ですので、予防を心掛けましょう。
<食事管理>
尿石がなくなった後も、尿石に配慮した療法食を食べ続けることをおすすめします。また、煮干しなどミネラルの多いおやつ、ミネラルウォーターなどを控えてください。
<飲水量を増やす>
常に新鮮なお水を用意する、水飲み場を増やすなど、水をたくさん飲めるように工夫しましょう。水をあまり飲まない子はウェットフードを併用してあげてください。
<おしっこを我慢させない>
外でしか排泄しないワンちゃんは、散歩の回数を増やしてみてください。お家の中でも排泄する子であれば、トイレの場所が寒かったり暑かったりすると行きたがらないこともあるため、トイレの場所を工夫してみましょう。
<肥満に注意>
肥満になると尿石ができやすいため、適度な運動と適切な食事管理で、肥満にならないように気を付けましょう。
少しでも異常を感じたら、当院までご相談ください。
ここからは実際の手術症例をご紹介します。
手術中の写真もあるため、ご了承いただける方のみお進みください。
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■実際の手術症例
<ストルバイト:膀胱切開>
■レントゲン写真
膀胱内に大量の尿石があることがわかります
■手術写真
膀胱から2cmほどの尿石を摘出しています
小さい尿石も大量にありました。
1頭の子からこれだけの尿石が摘出されました。
<シュウ酸カルシウム:膀胱切開>
■レントゲン写真
結石が尿道に詰まり、閉塞を起こしています。尿道閉塞は危険な状態なので、緊急手術が必要です。
■手術写真
尿道にある結石をカテーテルで膀胱まで押し戻し、膀胱を切開して結石を摘出しています
切開部分をキレイに縫合
<シュウ酸カルシウム多発:膀胱切開>
■レントゲン写真
腎臓結石、膀胱結石、尿道結石、尿道陰茎骨部結石がみられます。
尿道陰茎骨部と尿道にある結石をカテーテルで膀胱まで押し戻すことができたため、膀胱切開での結石摘出となります。
■手術中の写真
膀胱を切開して多数のシュウ酸カルシウムを摘出しています。
膀胱を縫合しています。
皮膚を縫って手術終了です。
<シュウ酸カルシウム:尿道切開>
■レントゲン写真
陰茎骨基部に尿道結石があります。尿道カテーテルフラッシュで膀胱に押し戻すことができなかったため、尿道を切開することになりました。
■手術写真
尿道を切開して、尿石を摘出しています
切開した尿道を縫合しています。縫合する際に、尿道が閉塞しないように細い糸を用いて、慎重に縫合していきます。非常に難易度が高い手術です。
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