【猫】膀胱結石の治療法と症例紹介「会陰尿道瘻設置術」
滋賀県 草津市/大津市のエルム動物病院です。
今回は「猫の膀胱結石」についてと、症例「猫の会陰尿道瘻設置術」についてご紹介します。
■膀胱結石とは?
尿に含まれるさまざまなミネラル成分が結晶化し、膀胱内の尿中にできた結晶が結石を形成したものです。この結石が尿道に移動すると、尿道結石と呼ばれます。結石が詰まって尿道が完全に塞がれてしまう状態を「尿道閉塞」と言い、急性腎障害や尿毒症を引き起こし、命にかかわる危険性があります。
尿結石の種類は、ストルバイト、シュウ酸カルシウム、尿酸アンモニウム、シリカ、リン酸カルシウム、シスチンなど多くあります。さらに、複数の成分から成る複合結石もあります。
■猫の尿結石の種類
猫の尿結石もストルバイトとシュウ酸カルシウムが約9割を占め、その発生率は1:2程度となっています。若齢ではストルバイト、高齢ではシュウ酸カルシウムが多くなる傾向にあります。
<ストルバイト結石(リン酸アンモニウムマグネシウム)>
猫は犬と違い、もともと尿路感染症の発生が少なく、ストルバイト結石症の約90~95%は非感染性です。原因は食事内容や水分摂取量の不足などであることが多いです。
~好発猫種~
ペルシャ、ロシアンブルー、アビシニアン、シャム、ヒマラヤンなど
↑顕微鏡で確認できる尿中のストルバイト結晶
<シュウ酸カルシウム>
ストルバイトと違い、尿結石用の療法食で溶かすことはできません。
結晶または小さい石の段階で早期発見できれば尿中から排出させることも可能ですが、基本的には外科手術で摘出することになります。
~好発猫種~
アメリカン・ショートヘア、ペルシャ、ノルウェージャン・フォレストキャット、ヒマラヤン、バーミーズなど
■膀胱結石の症状
膀胱結石の症状は、いわゆる膀胱炎の症状が典型的です。
・血尿
・頻尿
・失禁したり、排尿の調節ができない
・陰部のあたりを気にして、しきりに舐める
・排尿時に力む、もしくは痛がる
結晶ができ始めの初期だと症状がない場合もあります。しかし、早期発見して対処しないと、結晶は結石となります。
■膀胱結石の検査
<尿検査>
血尿、細菌の感染、結晶の有無を調べます。結晶が出ているかどうかを調べるだけであれば、ご自宅で採尿した尿でも可能です。ただし、採尿してから時間が経つと結晶ができてしまうため、新鮮尿をご持参ください。尿中に細菌がいるかどうか調べたい時には、病院でカテーテルもしくは膀胱穿刺による採尿をおすすめしています。ご自宅での採尿だと、細菌等が混入してしまうリスクがあるからです。
<細菌培養同定、感受性検査>
細菌感染が疑われる場合は尿中の細菌を特定し、どの抗生剤が効くか調べます。検査結果が出るまでにやや時間を要しますが、有効な抗生剤を選択することができます。
<レントゲン検査>
膀胱や尿道の結石の有無、大きさや形を調べます。尿結石の種類によっては、レントゲンに映らないものもあります。また、石が小さい場合や、骨盤内で骨と重なっている場合は見つけられないこともあります。
<エコー検査>
大きさや形は正確にはわかりませんが、結石があるかどうかを調べることができます。また、膀胱内の腫瘍の有無なども検査します。
※尿結石はいかに早い段階で発見し、治療を行えるかが大切ですので、定期的な健康診断をおすすめします。
結晶や尿結石ができてしまったら、月に1回は尿検査をすることを推奨しています。
また、一度治ったとしても、尿結石は再発リスクの高い疾患のため、定期検査をするようにしましょう。
■尿結石の治療法
治療方法は結石の種類や大きさによって、以下の中から治療法を選択します。
<尿結石用の療法食>
ストルバイト結石は専用の療法食で溶かすことができます。療法食により尿のpHを6.0~6.3に低下させ、マグネシウム制限食により尿中マグネシウム濃度を低下させるようにします。シュウ酸カルシウム結石は療法食で溶かすことはできませんが、予防や再発防止のために専用の療法食をあげてください。療法食を用いて、食事中のカルシウム、シュウ酸、ナトリウムを減少させ、リンとマグネシウムを適正に摂取するようにします。専用の療法食と水のみを与え、基本的にはおやつはあげてはいけません。
<投薬>
膀胱炎などの炎症を起こしているようであれば、抗炎症剤を使用します。猫ちゃんでは稀ですが、細菌感染が原因の場合は、抗生剤で治療する必要があります。
<サプリメント>
尿結石予防のサプリメントを与えることもあります。
<膀胱洗浄>
結晶や小さな尿結石であれば、尿道からカテーテルを挿入して尿道の詰まりを取って膀胱内を洗浄する処置を行います。
<外科手術による摘出>
専用の療法食では溶けない尿結石、または尿中からの排出ができない大きさの尿結石の場合は、外科手術で摘出します。
尿結石摘出手術には難易度があります。例えば、オスの尿道結石は細い尿道を切開し、切開部分を閉塞しないように縫う必要があるため、手術難易度が上がります。そのため、尿道カテーテル水圧法にて結石を膀胱まで押し戻します。重度の場合は、超音波を使って結石を粉砕し、結石を膀胱まで押し戻します。
しかし、尿道もしくは亀頭に細かい尿結石が詰まった場合、膀胱に結石を押し戻すことができず、やむを得ず尿道切開することもあります。
青丸を拡大した図が以下です
<参照:イラストでみる猫の病気|講談社>
実際の手術写真については、本ページ下部でご紹介しています。
■尿結石の予防方法
尿結石は再発しやすい疾患ですので、予防を心掛けましょう。
<食事管理>
尿結石がなくなった後も、尿結石に配慮した療法食を食べ続けることをおすすめします。また、煮干しなどミネラルの多いおやつ、ミネラルウォーターなどを控えてください。
<飲水量を増やす>
常に新鮮なお水を用意する、水飲み場を増やすなど、水をたくさん飲めるように工夫しましょう。水をあまり飲まない子はウェットフードを併用してあげてください。
<おしっこを我慢させない>
猫ちゃんのトイレは常に清潔を保ちましょう。また、トイレの数は猫の頭数+1つ以上は設置するようにしましょう。また、トイレの場所が寒かったり暑かったりすると行きたがらないこともあるため、トイレの場所を工夫してみましょう。
<肥満に注意>
肥満になると尿結石ができやすいため、適度な運動と適切な食事管理で、肥満にならないように気を付けましょう。
少しでも異常を感じたら、当院までご相談ください。
ここからは実際の手術症例をご紹介します。
手術中の写真もあるため、ご了承いただける方のみお進みください。
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<ストルバイト:会陰尿道瘻設置術>
■レントゲン写真
腎臓結石、膀胱結石、尿道内に大量の尿道結石がみられます。尿道カテーテルフラッシュで膀胱に押し戻すことができなかったため、尿道を切開することになりました。
■手術写真
まずは膀胱を切開し、膀胱内の尿結石を掻き出していきます。
続いて尿道を切開しています。
尿結石を掻き出しています。ビーズのような粒粒が全て尿結石です。
雄猫ちゃんは雌猫ちゃんよりも尿道が長く細いために閉塞を起こし易い特徴があります。
そのため、尿結石ができやすい子は、ペニスを切除してしまい雌猫ちゃんのような尿道に作りなおす手術(会陰尿道瘻設置術)を行います。
会陰尿道瘻が完成しました。尿道が拡大したことで、膀胱内にあった尿結石を膀胱洗浄によってキレイに排出できました。術後のレントゲン写真でも膀胱と尿結石の結石が見事になくなっています!
■術後写真
12日後に抜糸をして、尿道粘膜もキレイに開口しています。
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