【犬猫】歯周病と症例紹介「歯周病悪化による顎の骨折&根尖膿瘍」
滋賀県 草津市/大津市のエルム動物病院です。
今回は「歯周病」についてと、症例「歯周病悪化による犬の顎の骨折&猫の根尖膿瘍」についてご紹介します。
■歯周病とは?
ワンちゃんや猫ちゃんの歯周病は、動物病院で大変よく見る病気の一つです。
3歳以上のワンちゃんや猫ちゃんの8割以上が歯周病だと言われています。
この病気は、歯垢の中にいる歯周病の原因となる細菌への炎症反応によって引き起こされます。
進行すると、歯肉(歯茎)だけではなく、歯を支える根っこの膜や歯を支えている骨など歯の周辺の細胞にまで炎症が広がってしまいます。
歯肉のみが侵された歯肉炎の場合は治療によって改善されますが、歯の周りの組織まで侵された歯周炎の場合は、完全に回復させるのは難しいです。この歯肉炎と歯周炎をまとめて歯周病と呼びます。歯周病が進むと、歯茎が腫れて食事をする時に痛みが生じます。
さらに悪化すると、歯瘻や口腔鼻腔瘻を引き起こします。歯瘻は、炎症により歯の根元に膿がたまり、膿が排出されるトンネルの出口が眼の下や顎の下などにでき、穴が開いてしまった状態です。上顎臼歯の歯周病が悪化すると眼の下の歯瘻を引き起こすことが多いです。犬歯の歯周病が悪化すると、口腔と鼻腔を隔てる骨が溶けて、口と鼻がつながってしまい、口腔鼻腔瘻となります。また、下顎の歯周病が悪化すると歯槽骨が溶けて脆くなり、下顎の骨折を引き起こすことも稀にあります。
その他にも、口や顎の病気の原因になるだけでなく、心臓や肝臓、腎臓にも悪い影響を与えると言われているので放置することは禁物です。
本記事の下部に
(1)歯周病の悪化により、下顎骨の開放骨折をしたワンちゃんの症例
(2)歯周病の悪化により、下顎や頭に膿が溜まってしまった猫ちゃんの症例
を紹介しています。
歯周病ってそんなに怖いものなの?と半信半疑の方は、是非ご覧ください。
<歯周病になるまでの流れ>
Step1
ハミガキをしても、歯の表面には唾液によってペリクルとよばれる薄い膜ができます。
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Step2
ペリクルの上に歯垢が付着します。
歯垢は、細胞の残骸や唾液由来のタンパク質、食べ物の残りなどから形成されるものです。
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Step3
歯垢が歯面に付着して6~8時間ほど経つと、歯肉に炎症反応が起き始めます。
歯肉が腫れ、歯と歯肉の間には隙間(歯周ポケット)ができてしまいます。
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Step4
セメント質、歯を支えている骨や歯の根っこの膜などの歯周組織にも炎症が及び、歯周炎となります。
歯垢は唾液中のカルシウムやリンなどを取り込んで石灰化し、歯石となります。
また、人は歯垢が約25日で歯石になるのに対し、ワンちゃんは2~5日、猫ちゃんは1週間で歯垢が歯石に変わってしまいます。
■歯周病の検査と診断
最初は意識のある状態で大まかに歯垢や歯石がどのくらい付いているか、歯肉や口の中の粘膜が腫れていないか、赤くなっていないか、歯肉が後退していないかなどを確認します。
その他、必要に応じてレントゲン検査などを行うこともあります。
<歯肉の炎症程度>
まずは目で見て、歯肉の炎症を評価します。
- 正常 炎症はなく、健康な歯肉。
- 軽度の炎症 軽度の色の変化や腫れはあるが、出血はない。
- 中等度の炎症 赤み、腫れ、光沢があり、歯磨き等で出血する。
- 高度の炎症 著しい炎症、腫れ、深い部分にまで及ぶ傷つきがあり、自然に出血している傾向がある。
<歯垢の付着程度>
歯垢がどのくらい付いているかを評価します。
- 歯垢、食べ物の残りがない。
- 歯垢が歯面1/3以下のみ付着している。
- 歯垢が歯面1/3〜2/3に付着している。
- 歯垢が歯面2/3以上に付着している。
<歯石の付着程度>
歯石がどのくらいついているかを評価します。
- 歯石が認められない。
- 歯石が歯面1/3以下のみを覆っている。
- 歯石が歯面1/3〜2/3を覆っている。
- 歯石が歯面2/3以上を覆っている。
●軽度の歯周病
軽度の歯石付着があります。
●中等度の歯周病
歯石の付着と、歯肉の炎症が見られます
■重度の歯周病
びっしりと歯石が付着し、歯肉にも炎症や腫れが見られます
■歯周病の治療
<歯垢や歯石の除去(スケーリング)>
器具(超音波スケーラーなど)を使い、歯面の歯垢や歯石を除去していきます。
<ポリッシング(歯面研磨)>
スケーリング後は歯の表面がザラザラになってしまうため、歯垢や歯石が付きやすくなってしまいます。歯科用研磨剤をつけて、ブラシで歯の表面を1本1本丁寧に磨きます。さらにラバーカップで磨き、歯の表面の凹凸をなくします。ラバーカップにも動物歯科用研磨剤をつけます。
<洗浄>
治療のために使ったお薬や削ったものが残っているものを取り除きます。
<抜歯>
歯周病によって歯周組織の約2/3が破壊されている場合は、修復することが困難であるため抜歯をする場合があります。歯肉の切開等を行い、抜歯します。抜歯後は歯肉がくっつくまで2週間はやわらかい食事を与えましょう。
<アフターケア>
歯磨きを中心としたお家でのデンタルケアが大切です。歯磨きに慣れていない子はお口を触ることから慣らして、できるだけ歯磨きを行うようにしてください。
どうしてもお口を触ることが難しい場合は、デンタルガムなどのデンタルケア製品もご用意しています。
■デンタルケア商品
当院で取り扱っているおすすめのデンタルケア商品をご紹介いたします。
<歯ブラシ>
歯磨きで歯面、歯周ポケットの歯垢をしっかり除去できます。
獣医師推奨設計のベッツドクタースペック デンタルブラシ
ペットの歯周状態で選べる3タイプです。
<デンタルジェル・デンタルペースト>
歯ブラシにジェル・ペーストを付けて、歯磨きを美味しく楽しい時間に変えてくれます。
歯磨きは難しい…という場合は、ジェル・ペーストを歯茎に付けて舐めさせるだけでも、お口の健康を守るサポートをしてくれます。
C.E.T. 歯みがきペースト
嗜好性に優れた、犬・猫専用歯みがきペーストです。ブラッシングのあと、すすぐ必要はありません。2つの酵素(ラクトペルオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ)配合でお口の健康を守ります。
人気No.1はチキンフレーバー、人気No.2はバニラミントフレーバーです。
スカローデンタルジェル
ホタテ貝殻を原料として使用したペット用歯磨きジェルです。アルカリ領域のペットの口腔内に付いた歯垢、歯石をスカロー(水酸化カルシウム)のアルカリ特性を利用してタンパク質成分を分解し徐々に落としていきます。
<デンタルガム>
おやつ感覚で、噛むことで歯石の付着を軽減し、お口の臭いを抑えます。
C.E.T.ベジデントフレッシュ
犬の歯にフィットするユニークなZ字型の形状で、噛むことで歯の汚れを落とすことができます。ザクロエキス、イヌリン、エリスリトール配合で口腔内と腸内の健康を維持します。
<その他>
アクアデント
飲み水に混ぜるだけで、気になるお口のニオイが減ります。
ブラッシングやデンタルガムと組み合わせてお使いいただくのか効果的です。
デンタルバイオ
口腔内善玉菌とラクトフェリンを配合した、口腔内の健康維持をサポートするサプリメントです。
うちの子にどのデンタルケアが合っているかわからないという方は、当院スタッフまでお気軽にご相談ください。
ここからは歯周病が悪化してしまった実際の症例をご紹介します。
手術中の写真もあるため、ご了承いただける方のみお進みください。
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■歯周病が悪化したワンちゃんの症例「顎の骨折」
歯周病の悪化により、下顎骨の開放骨折をしたワンちゃんの症例を紹介します。
下顎骨が骨折し、口腔内を突き破ってしまっています。
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開放骨折した下顎骨をプレートで固定していきます。
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反対側の下顎骨も骨折しているため、同じくプレート固定しています。
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無事両側の骨折部位をプレート固定できました。
術後のレントゲン写真です。
■歯周病が悪化した猫ちゃんの症例「根尖膿瘍」
歯周病の悪化により、下顎や頭に膿が溜まってしまった猫ちゃんの症例を紹介します。
歯に付着している茶色っぽいものは全て歯石です。
この猫ちゃんは歯周病により、下顎と頭に膿が溜まってしまいました。
下顎が腫れているのがわかりますか?
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膿が溜まりすぎて破裂する前に、膿を出していきます。
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膿が大量に出てきました。
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膿を出した後は洗浄していきます。
同じ猫ちゃんですが、頭にも膿が溜まってしまっています。
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下顎と同じように膿が溜まりすぎて破裂する前に、膿を出していきます。
こうならないためにも、歯石が溜まって歯周病になってしまっている子は、悪化する前に歯石除去(スケーリング)することをおススメします。
そして、今、歯周病でない子は、健康なお口を保つためにも日々のデンタルケアを心掛けてください!
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