【犬】脾臓血腫と症例紹介「犬の脾臓摘出術2例」
滋賀県 草津市/大津市のエルム動物病院です。
今回は「犬の脾臓血腫」についてご紹介します。
■脾臓血腫とは?
脾臓は胃の隣にある臓器です。
造血機能、免疫機能、血球の破壊、血液の貯蔵などの役割を担っている体内で最大のリンパ器官です。これらの機能は他の臓器で代償できるため、脾臓に問題が生じた際には脾臓を摘出することが多いです。
摘出する多くの場合は脾臓腫瘍であり、良性または悪性と様々です。ワンちゃんの場合、良性の多くは血腫で、脾臓の中の一部の血管がはじけて、脾臓内で出血がおこります。良性にしろ、悪性にしろ、腹腔内出血などの命に関わる深刻な状態を引き起こすため早期診断と治療が必要です。
<良性の脾臓血腫の原因>
・老齢性による脾臓内の循環障害
・脾臓の捻転
・物理的な脾臓の損傷
などがあります。
ちなみに、脾臓の腫瘍の1/3〜2/3は悪性で、以下の腫瘍疾患が考えられます。
・血管肉腫(最も悪性度が高い)
・リンパ腫
・肥満細胞腫
・形質細胞腫
・組織球肉腫
など様々あります。
腫瘍の種類によって予後も変わってきます。
■脾臓血腫の症状
<初期の段階>
・無気
・脱力
・嘔吐
・食欲不振
など
初期の段階では、脾臓の疾患に気づかないことも少なくありません。そのため、健康診断の際に偶然脾臓腫瘤が発見されることも珍しくありません。
<脾臓腫瘤が破裂した段階>
・大量出血による急速なショック症状(頻脈、低血圧、毛細血管再充満時間の延長、呼吸促迫など)
命に関わる危険な状態です。
■脾臓血腫の診断・治療
<超音波検査やレントゲン検査>
腫瘤のサイズや形態などを評価することができます。腹腔内の出血を確認できる場合もあります。ただし、画像所見や腫瘤の外貌のみでは腫瘤が腫瘍性疾患であるかどうかや腫瘍の悪性度などは不確かです。
<外部機関での病理検査>
確定診断をするためには、病理学的な検査が必要です。外科的な摘出後に病理診断を行うことが多いです。血腫・結節性過形成といった良性腫瘤の場合は、予後は良好で、症例の多くは外科的治療の後、健康な生活をおくることができます。一方で悪性の場合、腫瘍の種類によって予後が変わってきます。
■脾臓血腫の症例
今回は2例の脾臓摘出の症例をご紹介します。
脾臓血腫がはじける前に摘出できた例と、脾臓血腫がはじけてしまってから緊急で摘出した例をご紹介します。
ここからは実際の手術症例をご紹介します。
手術中の写真もあるため、ご了承いただける方のみお進みください。
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■脾臓がはじける前に摘出できた症例
この症例は8歳10ヶ月齢のトイプードルです。
歯石除去(スケーリング)をご希望で、麻酔前の術前検査をおこなったところ、エコー検査で脾臓の腫瘤を発見しました。
33㎜ほどの腫瘤が確認できます。
レントゲン画像です。
赤枠で囲った、ポコっとなっている部分が脾臓腫瘤です。
腫瘤が見つかったら即手術するということではなく、腫瘤の大きさや、大きくなるスピードなどを考慮して、手術可否を判断します。大きくなるスピードがゆっくりの場合は定期チェックで様子をみることもあります。
今回のワンちゃんはその後急速に腫瘤が大きくなってきたため、自壊するリスクを回避する目的で、摘出手術をすることになりました。
脾臓に腫瘤が確認できます。
脾臓に腫瘤が見つかった場合は、基本的には全摘をします。脾臓が担っている機能は、その他の臓器でも代替可能なので、すべて摘出してしまっても全身の健康状態が急速に悪くなるようなことはありません。もちろん、脾臓も残せるに越したことはありませんが、悪性腫瘍であることを想定し、予後を考えた場合、全摘出した方がペット自身にとってもメリットが大きいです。
Ligasure(リガシャー)という血管や軟部組織をシールすることのできるデバイスを用いて素早くすべての動静脈をシーリングします。昔ながらの徒手結紮による手技より10分は早くなります。
無事、脾臓の摘出が完了しました。脾臓に付着していた大網もシーリングして腹腔内に戻し、腹壁と皮下脂肪を吸収糸で、皮膚をナイロン糸で丁寧に縫合します。
わずか26分で、脾臓摘出と縫合が終わり、その後スケーリングを行って手術終了です。
■脾臓がはじけてしまった症例
今回の症例は、6歳のフラットコーテッドレトリバーです。大型犬の6歳は人で言うと50歳くらいに相当します。
飼い主様ともそろそろ健康診断を受けないと、と話をしており、来月にでも健康診断に来院していただく予定でした。そんな話をしていた翌週に、突然倒れて動かなくなったという主訴で来院されました。
エコー検査をしたところ、60mm超えの脾臓腫瘤が確認できました。
また、お腹の中に液体が溜まっているのが確認できます。エコーでは黒く見える部分です。
お腹に液体が溜まっているということは、脾臓がはじけたことや癌性の腹水などが考えられます。
エコーガイド下で穿刺吸引すると出血であることが確認できたため、緊急で脾臓の摘出手術をすることになりました。
お腹を開けると、血だまりができていました。
脾臓を取り出すと、腫瘤が半分崩れており、はじけたことがわかります。
Ligasureで次々と血管をシーリングしながら、分離しています。
※シーリング:止血をしながら切開できます
脾臓を摘出しました。
黄枠が脾臓腫瘤ではじけてしまった部分です。
はじけたばかりなので、お腹の中には血餅(血の塊)も出てきました。
36kgの子なので、900ccくらいお腹から血を回収しました・・・
お腹を閉じる前に生理食塩水でキレイにします。
腹腔内がキレイになったら腹壁と皮下脂肪を吸収糸で縫合し、腹壁はナイロン糸で縫合して手術終了です。大型犬の大きな脾臓を摘出したので、傷口は12−3cmになりました。
摘出した脾臓を病理検査出したところ、結節性過形成という診断でした。
悪性ではなく良性の血腫だったので、転移はしないので、ひとまず安心です。
ただ、ここまで大きくなると良性でもはじける危険が高く、発見と緊急手術対応が遅れていたら、大量出血で亡くなっていた症例です。
人間換算で40歳代に突入する小型犬では最低6歳・大型犬では5歳から、早期発見のためにも、少なくとも半年に1回の定期的な健康診断をおすすめいたします。
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