【犬】心タンポナーゼと症例紹介「犬の心タンポナーゼ&脾臓血管肉腫」
滋賀県 草津市/大津市のエルム動物病院です。
今回は「心タンポナーゼ」についてと、心タンポナーゼと脾臓血管肉腫になってしまった症例をご紹介します。
■心タンポナーゼとは?
「心タンポナーデ」
聞き馴染みのない言葉かもしれません。
心臓は心膜という薄い膜に包まれており、心膜と心臓の間には通常は心嚢液という少量の液体があります。
心タンポナーデは心膜と心筋の間に心嚢液や出血に伴う血液が大量に、または急速に増加して貯留してしまったために、心臓が十分に拡張することができない状態のことを指します。
<心タンポナーデの原因>
・心臓の腫瘍
・慢性の弁膜症の悪化
・外傷による心臓からの出血
など
最も多いのは心臓に腫瘍が発生し、そこから出血してしまうことです。他にも交通事故など外傷によるものや心膜炎なども原因となります。原因不明でいきなり血液が溜まってしまう「特発性」の場合もあります。
ワンちゃんの場合は腫瘍(血管肉腫など)、心房破裂、右心不全、特発性が多く、ネコちゃんでは稀ですが腫瘍、心筋症、猫伝染性腹膜炎などが原因として挙げられます。
■心タンポナーデの症状
<初期の段階>
・元気や食欲の低下
・散歩に行きたがらない
・ふらつき
・呼吸が荒い、胸苦しそう
・失神
など
少し前までは元気だったのに、急に倒れて、命に関わるということも起こりえます。
■心タンポナーデの診断・治療
心タンポナーデは胸部レントゲン検査、心臓エコー検査により確定診断することができます。特に、胸水貯留と心嚢水貯留(心タンポナーデ)では大きく治療方針が変わるため、慎重に見極める必要があります。
心タンポナーデを発見した場合、心臓が正常に動くよう、早急に心嚢液を抜くことが重要です。心嚢穿刺といって胸壁から心臓と心膜の間に針を刺すことで液体を抜きます。貯留液の量や動物の性格・状態にもよりますが、多くの場合、無麻酔下で抜くことが可能です。
針を刺す際には、心臓に刺さらないように気を付けながら心膜腔に針を刺して液体を抜きます。液体が抜けると心臓は正常の動きを取り戻し、全身への血液循環が再開します。
貯留する液体の量や経過により、必要に応じて心膜切除を実施する必要があります。心膜切除により心嚢水が貯留することがなくなります。負担の大きな手術ですが、定期的な穿刺治療からは解放される可能性があります。
予後については、腫瘍が原因の場合、経過はあまり良くないことが予想されます。そういった状況の中で、できる限りの治療を行うという選択、ペットが少しでも楽に過ごせることを最優先にした選択、など飼い主様と相談しながら今後の方針を決めていきます。一方で、特発性の場合は、数回の心膜穿刺で治癒することも多く、予後は良好と言われています。
ここからは実際の手術症例をご紹介します。
手術中の写真もあるため、ご了承いただける方のみお進みください。
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■心タンポナーデ+脾臓血管肉腫の症例
10歳のゴールデンレトリーバーのワンちゃんが、ぐったりしていて、動けない、息苦しそうということで来院されました。
レントゲン検査をしてみると、心臓がまん丸に大きくなっていました。
心臓エコー検査をしてみると、心臓と心膜の間に大量の貯留液があることがわかりました。
また、心膜に腫瘤がみられたため、恐らく腫瘍性の心タンポナーデです。
緊急で心嚢液の抜水を行いました。心臓に針を刺さないように、エコーをあてながら心臓と心膜の間まで針を刺していきます。
300mlほどの心嚢液が抜けました。
心嚢穿刺後の心臓です。心嚢液で膨れ上がっていた心臓陰影が本来の大きさほどに戻りました。
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このワンちゃんは心膜に腫瘤があったことから、他臓器からの腫瘍転移を疑い、その他の臓器もレントゲン検査、エコー検査を行いました。脾臓に大きな腫瘤がみてとれます。
近いうちに脾臓も破裂する可能性があると言っていた矢先、またぐったりしているという主訴で来院されました。
エコー検査では脾臓腫瘤が6.8㎝ほどあることがわかります。数週間前は3cmほどだったので、急激に腫瘤が大きくなっていました。
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大きくなった腫瘤のレントゲン写真です。
脾臓腫瘤が破裂したことが考えられたため、腹腔穿刺をしたところ、腹腔内に大量の血液を確認できました。
歯茎も白くなっており、貧血が疑われます。
緊急で脾臓の摘出手術を行いました。
出血を止めようとして大網(腹膜のひだ)が脾臓に張り付いていたため、LigaSureという血管シーリングシステム(=止血用電気メス)を使い、止血をしながら大網を脾臓から剥がしていきました。
無事に脾臓を摘出しました。右側の丸く膨らんでいるものが腫瘤です。
腹腔内を洗浄し、他に問題か無いか確認した後、腹壁を3重に縫合して手術が終了しました。
摘出した脾臓を専門の病理検査に出すと、予想通り『血管肉腫(悪性腫瘍)』と診断されました。
脾臓にできた血管育種が心臓に転移し、心タンポナーデを引き起こしていたということです。
当院が勧めるように、中年以降では半年に1回(=人換算で2−3年に1回)の定期的に健康診断をしていれば、心臓に転移し自壊して心タンポナーデになる前に、脾臓だけに腫瘍が発生していた段階で比較的用意に摘出できて、長生きできた可能性が高いです。
2回に渡る緊急処置・手術を乗り越えられたとはいえ、予後は悪く、
健康診断を受けていなかったことを、飼い主様も大変 悔やまれておりました。
当院では飼い主様に積極的・気軽に健康診断を受けていただきたいという思いから、
ワンちゃん、ネコちゃんそれぞれで年2回の健康診断キャンペーンも行っています。
是非ご利用ください。
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