【猫】肥大型心筋症と症例紹介

滋賀県 草津市/大津市のエルム動物病院です。

今回は循環器疾患の「僧帽弁閉鎖不全症」についてと、その症例をご紹介します。

 

■肥大型心筋症とは?


肥大型心筋症は、猫ちゃんに最も多い心臓病です。

左心室の壁が分厚くなり、心臓がうまく膨らめず、十分な血液を送ることができなくなります。また、左心室壁が分厚くなった結果として大動脈への流出路が狭くなり、左心室から左心房へ血液が逆流してしまうケースも少なくありません。

 

心臓 肥大型心筋症

心臓が何らかの原因によりその機能が障害されると、生体は機能低下を代償しようと様々な反応(代償反応)を作動させます。主に体液量(循環血液量)の増加と血圧上昇の2つです。これらの代償反応により、初期は心機能が維持され、はっきりした症状もみられません。しかし代償反応の状態が持続することは心臓の負担となり、心機能を維持しきれなくなります。

 

病態が重度に進行すると代償しきれず、「肺水腫」や「胸水貯留」を引き起こします。また、左心房内で停滞した血液が血栓となり血管を詰まらせる「動脈血栓塞栓症」の危険性もあります。後述しますが、肺水腫や胸水貯留、動脈血栓塞栓症は危険な状態で、一刻も早い治療が必要です。

 

<好発猫種>

メイン・クーン、ラグドール、アメリカンショートヘアにおいて、家族性に発症する遺伝子疾患である言われています。また、ノルウェージャン・フォレスト・キャット、ブリティッシュ・ショートヘアー、スコティッシュ・フォールドなども遺伝性の素因が関連していると考えられています。

また、甲状腺機能亢進症や高血圧が原因となることもあります。

 

 

■肥大型心筋症の症状


<初期>

・症状が無い場合もある

・疲れやすくなる

・活動性が低下する

 

<進行後>

・動きたがらない

・食欲不振

・呼吸困難

・咳

・肺水腫*1

・胸水貯留*2

 

*1 肺水腫とは

肺に液体が溜まった状態で、陸にいるのに溺れている状態に近いです。肺から酸素を取り込めなくなってしまうため、強い息苦しさを感じます。この時レントゲン撮影をすると、肺が真っ白に写ります。

 

*2 胸水貯留とは

胸腔(胸壁に囲まれていて心臓や肺などの臓器が入っている空間)に異常な量の水が貯まった状態です。必要以上の胸水が胸腔内に貯まり、肺は圧迫され膨らむことができない状況になり、呼吸困難を起こします。

※動脈血栓塞栓症とは

病態の時期に関わらず、突如として発症する可能性があります。左心房内で停滞した血液が血栓となり、血管を詰まらせます。大動脈から左右の後ろ足に枝分かれして細くなる血管で詰まることが多く、強い痛みを伴います。血栓が詰まった箇所よりも下流では血が巡らなくなるため、麻痺が出る、足先が冷たくなるといった症状がでます。適切な治療をしないと、脚が壊死する場合もあります。

 

 

■肥大型心筋症の診断


■聴診

肥大型心筋症が進行すると、不整脈や心雑音が確認できることもあります。しかし、心雑音が聞こえないケースもあるため、他の精密検査が必要です。

 

■レントゲン検査

肥大型心筋症が進行すると、心拡大が確認できることもあります。しかし、猫の心筋症では心肥大が起こっていないようにみえることがあるため、他の精密検査が必要です。

 

■心臓エコー検査

左心房の拡大、左心房や左心室の収縮力の低下、著しい左心室壁の肥大などがないかを確認します。

 

■血液検査(心臓バイオマーカー検査)

心筋細胞から分泌される特殊な物質の血中濃度を測定することで、心筋症の早期発見が可能な検査です。

 

■心電図検査

心臓のリズムを検査し、不整脈がないかを確認します

 

■血圧検査

高血圧ではないかなどを調べます。

 

 

■猫の肥大型心筋症のステージ分類&治療


病気の進行具合によってステージ分類されていて治療法などが変わってきます。

 

ステージ 定義 治療
ステージA ・心筋症リスクのある猫種

・心筋症に羅患していない

治療の必要はありません。定期検診を行い心臓の状態を確認していきます。
ステージB1 ・心筋症に羅患している

・症状なし

・正常~軽度の左房拡大

治療の必要はありません。定期検診を行い心臓の状態を確認していきます。
ステージB2 ・心筋症に羅患している

・症状なし

・中等度~重度の左房拡大

動脈血栓塞栓症のリスク因子が存在する場合には血栓予防を推奨します。心拍抑制薬(βブロッカー)や血管拡張薬(ACE阻害剤)などで治療する場合もあります。ただし、これらの薬が進行の抑制や予後の改善に寄与する明確なデータはなく、現時点で一貫した推奨治療は存在していません。
ステージC ・心不全や動脈血栓塞栓症による臨床徴候がある

または

・心不全や動脈血栓塞栓症の既往歴がある

※急性期

肺水腫や胸水貯留が認められる場合は、利尿剤(フロセミドなど)の投与や胸腔穿刺で胸水抜去を行います。呼吸不全を起こしている場合は酸素吸入を行い、過度なストレスを与えないように鎮静剤の使用を検討します。

 

※慢性期

重症度に応じて利尿剤を使用します。心拍抑制薬(βブロッカー)や血管拡張薬(ACE阻害剤)などで治療する場合もあります。ただし、これらの薬が進行の抑制や予後の改善に寄与する明確なデータはありません。左室流出路狭窄症を認めない猫の場合、強心剤(ピモベンダン)の投薬を検討します。2~4か月に1回の頻度で再検査が推奨されています。

ステージD ・標準的な治療に反応しない進行した状態

・難治性の心不全

利尿剤の変更(フロセミド→トラセミド±スピロノラクトン)を検討します。

左心室収縮力の低下が認められる場合は強心剤(ピモベンダン)の投薬を検討します。

※American College of Veterinary Internal Medicine (ACVIM)が発表した猫の心筋症の診断や治療に関する世界的なガイドライン

 

 

■肥大型心筋症の症例


肥大型心筋症で来院された2歳の猫ちゃんをご紹介します。

 

【症例①】

こちらの猫ちゃんは初診で来院いただいた時には、既に肥大型心筋症がかなり進行しており、肺水腫の状態でした。

 

来院時のレントゲン写真です。

肺の周りに白い靄がかかっているのがわかるかと思います。

肺水腫になっている証拠です。

肥大型心筋症 治療前レントゲン

 

至急入院していただき、当院でできる限りの処置を行い、何とか緊急の状態を脱しました。

そして、一旦回復したタイミングで退院できることに。

とは言え、万全な状態というわけではないため、お家での管理をサポートするために、酸素室をレンタルいたしました。

肥大型心筋症 治療後レントゲン

 

その後、肥大型心筋症が徐々に進行し、循環器に強い専門の動物病院さんにセカンドオピニオンに行っていただきましたが、残念ながら亡くなってしまいました。

心臓病は進行性の病気のため、「いつもと違うかも」と思った時点で、動物病院への受診をオススメいたします。

 

 

【症例②】

続いて、11歳の猫ちゃんの症例をご紹介します。

健康診断でエコー検査を実施したところ、心筋壁の厚さが8㎜ほどあり、肥大型心筋症の疑いがありました。

ちなみに、正常な猫ちゃんの心筋壁は6mm以内です。

 

左心室壁が分厚くなった結果として大動脈への流出路が狭くなっていることが、エコー検査画像からわかります。

心筋壁は6.8mmあります。

肥大型心筋症 エコー

 

現在、内服治療を行っており、心肥大の進行抑制や弁逆流の改善傾向がみられています。

ステージが低い段階で肥大型心筋症の早期発見ができると、この子のように病態の進行を遅らせることも可能となります。

 

 

■肥大型心筋症の予後


肥大型心筋症の猫ちゃんの予後は様々で、臨床症状を示さず何年も生存できることもあります。一方で、動脈血栓塞栓症を患ってしまった猫ちゃんは、数日で亡くなってしまう事も少なくありません。

 

肥大型心筋症の予防方法はありません。不可逆性の疾患のため、病気の早期発見をして、病態の進行を遅らせたり、血栓ができないように血栓予防をしてあげることが何よりも大切です。

 

病気の早期発見のために、日常生活で呼吸に異常がないか、疲れやすくなっていないかなど、日々チェックしていきましょう。また、定期的に動物病院で健康診断を受けていただくことも、病気の早期発見に繋がります。

 

 

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