【犬】クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)とは

滋賀県 草津市/大津市のエルム動物病院です。

今回は「犬のクッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)」についてご紹介します。

 

■クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)とは?


クッシング症候群とは、腎臓のそばにある副腎から分泌される「コルチゾール」というホルモンが出すぎて、体に悪影響を与えている状態をいいます。犬でよくみられるホルモン異常の病気ですが、症状が進行すると免疫力が低下し、皮膚炎や膀胱炎(ぼうこうえん)などにかかりやすくなったり、糖尿病などの病気を併発したりするので注意が必要です。多量に水を飲んだり、尿の量や回数が多い、お腹がふくれる、脱毛などで気づくことが多いです。犬で多く猫では稀です。

 

 

■クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)の症状


クッシング症候群は、さまざまな症状を引き起こす可能性がありますが、以下は最も一般的なものです。

・水をよく飲み尿も増える

・毛が抜ける

・皮膚が黒ずむ(色素沈着)

・皮膚が薄く弱々しくなる

・足腰が弱くなり散歩に行きたがらない

・呼吸が速い

・おなかが膨れてくる など

 

散歩に行きたがらず疲れやすくなるような症状や、抜け毛に関しては、「年を取ったせいだろうか」と思い見過ごしてしまうことも多いです。

 

脳下垂体に腫瘍ができているケース(※後述します)では、神経症状(徘徊、夜鳴きなど)を併発することもあります。

また、皮膚が弱くなることでおなかの筋肉を支えられず膨れて目立つようになったり、皮膚感染のリスクが高まったりすることもあります。

 

病気が進行してくると、免疫力が低下し、皮膚炎や膀胱炎などの感染症にかかりやすくなります。

また、糖尿病を併発することもあり、治療が遅れ病状が悪化した場合、命に関わる可能性があります。

 

 

■クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)の原因


副腎から「コルチゾール」というホルモンが出すぎてしまうことで症状を認めます。原因は下記の2つです。

 

1)脳下垂体の腫瘍:クッシング症候群の犬の9割

2)副腎の腫瘍:クッシング症候群の犬の1割

 

視床下部や下垂体前葉、副腎から分泌されるホルモンのうち、どこかがバランスを乱し過剰にホルモンを生成してしまうことが問題となります。副腎あるいは下垂体に問題が生じていることがほとんどです。そもそもの原因となっている部位が異なるにもかかわらず、症状は共通しているのです。そのため、外見だけで原因がどちらにあるのかを鑑別するのは困難です。

 

治療のためには、下垂体もしくは副腎のどちらに問題があるのかを検査で判断する必要があります。

 

【脳下垂体の腫瘍によるもの】

副腎皮質から分泌するホルモンの量をコントロールしているのが、脳下垂体の下垂体前葉です。下垂体が腫瘍化することで、下垂体前葉から副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が大量に分泌されます。その刺激を受けて副腎皮質では糖質コルチコイドが過剰に生成されます。自然発生のクッシング症候群のうちおよそ9割が下垂体の異常によるものとされています。

 

【副腎の腫瘍によるもの】

視床下部や脳下垂体の機能は正常であるにもかかわらず、副腎そのものが腫瘍化して副腎皮質ホルモンが大量に分泌されているタイプです。上司からの指示は適切であるにもかかわらず、ホルモンを生産する現場でエラーが生じて必要以上に稼働している状態といえます。こちらは、下垂体腫瘍に比べると発生割合は低く、自然発生のクッシング症候群のおよそ1割程度といわれます。

 

【ステロイド剤の投与に関連するもの】

慢性の炎症や免疫が関連した病気で、ステロイドと呼ばれる薬を使用することがありますが、この薬剤の投与が過剰になると、副腎や脳下垂体の機能が正常であってもクッシング症候群と同様の症状を発生することがあります。投薬により、体全体では副腎皮質ホルモン濃度が高い状態となるからです。使い方や用量を考慮しなければ、逆に体調不良を生じる恐れがあります。

 

※特に気を付けたい犬種や特徴、年齢

クッシング症候群にかかりやすい犬種は特にありません。原因が副腎の腫瘍、下垂体腫瘍のどちらであっても中齢(8歳くらい)から発生が増える傾向にあります。すべての犬種でかかる可能性があり、とくに高齢の犬がかかりやすい病気です。

 

 

■クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)の治療


クッシング症候群の治療は、その原因によって異なります。

 

【脳下垂体に腫瘍がある場合】

腫瘍の大きさにより治療法が違ってきます。腫瘍が小さい場合は、副腎から分泌されるコルチゾールを抑える内服薬を服用します。腫瘍が大きい場合は放射線治療や内服薬、また、限られた施設ですが外科手術も行われています。

 

【副腎に腫瘍がある場合】

外科手術が適用となります。

 

犬の副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)は進行性の病気であるため、長期にわたり様々な臓器に影響を与え、気がついた時には心臓や肺、腎臓などに取り返しのつかない障害を与えてしまいます。早期発見と治療が非常に重要です。

 

 

■クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)の予後


脳下垂体の腫瘍が小さく、お薬で副腎からのコルチゾールがうまく抑えられれば、症状は良くなり、寿命まで生きられます。脳下垂体の腫瘍が大きく、放射線治療を行わなかったり、行っても腫瘍が小さくならなければ1~2年以内に認知症のようになり、生活が難しくなります。

副腎の腫瘍を手術で完全に摘出できれば、症状は消え、寿命まで生きられます。摘出が完全には難しい場合は、内服薬を服用し、見た目の症状を抑えますが、余命はさまざまです。

 

 

■クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)の予防


残念ながら、犬のクッシング症候群を予防するための効果的な方法はありません(医原性のものは除く)。すべての犬種でかかる可能性があり、とくに高齢の犬がかかりやすい病気のため、食欲や水分の摂り方、体重の変動などの変化をよく確認しておくとよいでしょう。

 

犬のクッシング症候群は、一度発症すると完治が難しい疾患です。ただ、早期に発見できれば他の病気を併発するリスクを軽減できる可能性があります。また治療にあたって、問題となっている部位によって治療の方法が変わることがあるため、適切な診断が不可欠です。兆候が見られたら、早めに獣医師の診察を受けましょう。

 

 

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