【犬】会陰ヘルニアとは

滋賀県 草津市/大津市のエルム動物病院です。

今回は「犬の肛門周囲腺腫」についてご紹介します。

 

 

■会陰ヘルニアとは?


会陰ヘルニアは、肛門の周囲(会陰部)の筋肉が萎縮して“緩い”状態になることで、その隙間に臓器(膀胱や直腸、前立腺、脂肪など)が飛び出る病気です。肛門をはさんで両側性に発生することが多いですが、片側のみに発生する場合もあります。

 

 

■会陰ヘルニアの症状


次は、会陰ヘルニアの症状についてです。

 

【肛門の周囲に膨らみがある】

会陰ヘルニアの症状で気づきやすいのが肛門の横の膨らみです。これは、肛門周辺の皮膚の下部にて、内部にある直腸や膀胱などの臓器が筋肉の隙間へと飛び出ていることによるものです。ただ、膨らみは症状の進行によって軽ければ気づきにくいケースもあります。また、膨らみが影響して、いつもと尻尾の向きが変わってしまうこともあります。

 

【しぶりが見られる】

会陰ヘルニアの犬に「しぶり」が見られることがあります。しぶりとは、うんちが少ししか出なかったりほとんど出ないのに何度も排便姿勢をとってうんちをしようとする様子を指します。腸管が飛び出ると、排便はできるものの「いつもよりも相当な時間がかかる」「かなり頑張ったのに便が少量」なども会陰ヘルニアに見られる症状です。

 

【排便時にいきんで痛そう】

排便しようと踏ん張り過ぎると、血便が出るケースもあります。力を入れずにするっと排便できればいいですが、力を入れても排便できないと犬は苦しいでしょう。会陰ヘルニアは、本来の位置からずれた状態で排便に時間がかかるだけでなく、痛みも伴います。また、排便のたびにいきむため、直腸が歪んでくることもあります。

 

【便秘でうんちが出なくなる】

初期の頃は時間がかかっても何とか排便できますが、いずれ便秘になってうんちが出なくなります。初期症状を見逃して放置すると、いずれ直腸の筋肉が切れるなど重症化することになります。便が溜まると、肛門の周辺はさらに膨らんできます。

 

※膀胱が出ている場合

尿が出なくなると緊急性が高くなるので注意が必要です。会陰ヘルニアの症状が進み膀胱が隙間に入り込むと、尿を出す際の正しいルートからずれてしまい、尿道閉塞を起こし排尿できなくなる可能性もあります。元気がなくなるばかりか、放置すると腎不全になり命にかかわるため早急に治療を行うことが求められます。

 

 

■会陰ヘルニアの原因


会陰ヘルニアの直接的な引き金となる要因については、不明なところが多いです。ただ、筋肉が薄くなってしまう原因に男性ホルモンが関与しているといわれ、未去勢の中高齢のオスの犬で多く発生します。

そのため、去勢手術をしておらず、比較的高齢な犬に多い傾向にあります。7歳を超えると“シニア犬”となります。去勢手術をしていないオス犬の場合は、シニア期を過ぎたら会陰ヘルニアの症状がないかチェックしておいた方がいいでしょう。

 

 

■会陰ヘルニアの治療


会陰ヘルニアの治療はほとんどの場合、外科的手術によって飛び出した臓器を元の状態に戻し、筋肉の隙間をふさぐ治療となります。病気の発生に男性ホルモンが影響しているため、去勢していない犬の場合は再発防止のために、同時に去勢手術を行います。会陰ヘルニアの症状によって治療方法も異なってきます。排便しやすいように食事で改善するという方法もありますが、多くの場合、手術をして根本的な原因を取り除くことが効果的です。

 

【まずは診断する】

適切な治療を進めていくには、まずは状況を正しく確認することが大事です。問診や触診、そしてレントゲン検査やエコー検査により、「何の臓器が飛び出しているか」「機能低下している臓器がないか」などを確認します。

 

【内科的治療で治るものか?】

すでに排便できずに便が溜まっていれば、便を柔らかく出しやすくするなど、内科的な観点の処置が行われます。ただ、便自体は出ても、そもそもの便秘の原因となっている会陰ヘルニアの症状の進行を止めたわけではありません。「会陰ヘルニアを治す」という根本的な治療は、やはり外科的治療しかないのです。しかし、手術は全身麻酔のため、高齢犬はリスクを考えたうえでの決断となるでしょう。便を出やすくする内服液や、「便を掻き出す」という処置も行われることもあります。ただし、対症療法ですので、今後のリスクもしっかりと理解しておくことが大事です。

 

【会陰ヘルニアの手術は難易度が高い】

会陰ヘルニア自体の手術の難易度は高く、再発が多い病気です。一般的には、大学病院のような大きなところで行う手術として考えられています。そのため、根本的に治すなら外科手術が適応なのに、「様子見」という診断をされるケースも実は多いです。しかしそれでは根本的な原因を取り除けないばかりか、次第に症状が悪化して、より苦しい状態になる可能性があります。「様子見」は「何もしなくて良い」ということではないのです。手術ができる年齢や体力であるのに手術を選ばない場合、いずれ症状が悪化していくこと、命にかかわる状態を引き起こす可能性があることを踏まえておきましょう。

ヘルニアが起こっている周辺の隙間を自分の組織を使って塞ぐという方法や、人工物によりヘルニアを正常な位置や形に治していく方法など、さまざまな術式があります。

 

ただ、前述したように、症状が軽く見える初期の頃は、犬自身もそれほど苦痛に見えず、受診したとしても「様子見」とされることも少なくありません。

しかし、この初期の頃こそが手術のタイミングとしては適切なのです。手術によって、これ以上犬の会陰ヘルニアを致命的な症状に進行させないことが大事です。

 

また、飼い主様の多くは、手術時間の長さを心配されるかもしれません。会陰ヘルニアの手術後は入院し、犬の排便や排尿が回復できるか観察します。手術してから、およそ1週間後に抜糸を行います。

 

ここからは実際の手術症例をご紹介します。

手術中の写真もあるため、ご了承いただける方のみお進みください。

 

 

■会陰ヘルニアの症例


「お尻の左右が膨らんできて、排便が困難」という主訴で来院されたワンちゃんをご紹介します。

12歳半 柴犬 未去勢 のワンちゃん。

主治医に行ったけれど、高齢でハイリスクのため、セカンドオピニオンで当院に来院されました。

会陰ヘルニア

 

会陰部の筋肉が委縮したために、骨盤腔内に指が何本も入っていく状態です。

会陰ヘルニア

 

肛門近くの直腸が左右と下方向に伸びており、そこにウンチが溜まっていました。

まずは摘便してウンチを掻き出します。

その後、 大便が漏れ出さないように、①肛門を巾着縫合、②滅菌フィルムの張り付け、③ヘルニア部位周辺の皮膚を切開します。

会陰ヘルニア 会陰ヘルニア

 

続いて、ポリプロピレンメッシュを三角錐状に加工し、ヘルニア部位である仙結節靱帯と坐骨、外肛門括約筋に非吸収性の糸で固定します。

会陰ヘルニア 会陰ヘルニア  会陰ヘルニア

 

次に、皮下組織を寄せて、伸びて余った皮膚を切って、PDSプラスという吸収糸で皮膚を縫合します。

会陰ヘルニア

 

この作業を両側で実施しました。

会陰ヘルニア

 

会陰ヘルニアの手術方法はいくつかあります。

①単純に糸で筋肉を縫合する方法

※筋肉が萎縮している場合は適さない

 

②睾丸を包んでいる総鞘膜を腹腔内に引き込んで、肛門横に引き出して筋肉に縫い付ける方法

※去勢と同時の場合はOKですが、強度はメッシュの方がある

 

③内閉鎖筋を坐骨結節からはがして反転させて筋肉や仙結節靱帯に縫い付ける方法

※内閉鎖筋が萎縮していると適さない

 

④人工素材のポリプロピレンメッシュを使用

※今回の方法

など

 

今回の子は内閉鎖筋の委縮があり、且つ両側ヘルニアだったので手術時間短縮するために④「人工素材のポリプロピレンメッシュを使用」で実施しました。

メッシュにより直腸が抑え込まれて、伸びた直腸の回復にも役立ち、便も貯留しにくくなりました。

また、未去勢だったので、併せて去勢手術も実施しました。

 

5日後にはきれいになって、10日後には抜糸をしました。

排便もスムーズになって、飼い主様にも喜んでもらえています。

 

 

■会陰ヘルニアの予防


高齢のオス犬は会陰ヘルニアの発生率が高いです。再発防止のためにしっかり予防する必要があります。

 

【去勢手術で発症率を低くする】

まず、「高齢・未去勢・オス」という条件が重なると会陰ヘルニアが起こりやすいです。そこで、オスの犬は去勢手術で発症確率を下げることが予防になります。去勢手術によって男性ホルモンをコントロールできれば、会陰ヘルニアの発症率は大きく減らせるでしょう。去勢手術は、会陰ヘルニアだけでなく、前立腺疾患、精巣癌などオス特有の病気、マウンティングやマーキングなどの問題行動の予防・緩和にもつながります。高齢になってから会陰ヘルニアの症状で困ったことになるよりも、まずは若い時期に去勢手術をしてみるのはおすすめです。また多くの場合、一度会陰ヘルニアを発症した犬は、再発防止のために去勢手術を同時に実施します。

 

【吠え癖を直しておく】

吠える動作は、肛門周辺にかなりの力が入るため、会陰ヘルニアの発症率を高めてしまいます。吠え癖を直すことは会陰ヘルニアの予防とも言えるでしょう。

 

【初期症状で気づいてあげられるようにする】

会陰ヘルニアになってしまっても、できるだけ初期に気づいてあげられるかが大切です。初期症状で飼主様が気づき、適切な対応ができれば、犬自身の苦しみや負担も減るでしょう。

特に、会陰ヘルニアは「便・尿」とも深く関係していますから、ふだんから排便や排尿の様子をよくチェックしてみてください。踏ん張っているのに便がなかなか出ないようなら、会陰ヘルニアの可能性があります。高齢の犬の場合、そもそも足の筋力も衰えてくるため、排便を踏ん張っている状況を年齢のせいだと軽んじてしまうケースもあるでしょう。しかし、その踏ん張りが会陰ヘルニアを悪化させてしまう可能性も。

 

また、「高齢・オス・未去勢」という条件が揃い、さらには排便が困難になっているときは受診をおすすめします。受診することで会陰ヘルニアかどうかが分かりますし、もし違う病気ならその病気の治療ができます。

 

 

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